Dr. Kenの “ゼロより1” 日記

沖縄県那覇市久茂地 タイムスビル6階にある 形成外科KCの院長、Dr. Kenのブログです。

壁を越える(3) 

 体調不良の中、今日も県立病院で乳房再建を行いました。昨年から4ヶ月連続で、この後も向こう3ヶ月予約が入っています。

 遊離腹直筋皮弁と呼ぶ方法で、下腹部の皮膚と脂肪を栄養する細い血管を脇(腋窩)の血管に手術用顕微鏡でつなぎ組織の血流を再開させて乳房を再建しました(詳細は以前のブログ「壁を越える(2)」をご覧下さい。

 細い血管で大きな組織を栄養するので、顕微鏡下の血管吻合がうまくいかないと命取りです。今日も脇の血管と下腹部の脂肪を栄養する血管を繋ぎましたが、動脈は口径差が倍近くありました。経験的に吻合が可能な口径差と判断し繋ぎましたが、途中から血流が悪くなっているのに気づきました。吻合には細心の注意を払い、一針でも納得いかない場合は、やり直します。ですから自分の中で納得できる仕上がりだと血流の再開には自信を持っていました。ただ組織の血流が悪ければ、吻合の仕直しを躊躇してはいけません。

 再度、納得のいく吻合をしました。

 しかし、ものの数分後に再度、血流が低下しました。吻合部を見ると尋常でない血栓形成(血のかたまり)を認めました。ここまでくると何らかの血液凝固亢進(血がとても固まりやすい状態)も考えて対処しなければなりません。

 三度目はさらに奥の太い動脈に繋ぎました。もちろん納得のいく仕上がりでした。今回は、普段は使わない血液凝固予防薬を併用することとしました。その結果、血流の低下はなく、きれいな乳房に再建して無事手術を終えることができました。

 このような微小血管外科(マイクロサージャリー)を始めて20年余、数多くの症例をこなす中、必ずしもすべてがうまくつながったわけではありません。いまでも鮮明に脳裏に顕微鏡下の像が残っている症例があります。進行した乳がんを切除して同時に腹直筋皮弁で再建しましたが、血管吻合後に血流の低下があり7度も血管を縫い直しました。しかも吻合後に信じられない速さで血栓形成を認め、最後は血液凝固予防薬を使っても改善しませんでした。毛細血管に近いレベルのほとんどの血管がダメージを受け、まったく血流が流れなくなる現象(No Reflow Phenomenon)が起きます。

今日も小さな「壁を越えた」と実感し病院を後にしました。しかし、人智を越える出来事が起きることがあります。「越えられない壁」があるかも知れませんが、挑戦し続けることが自分が生きている証です。パンチ!


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この記事へのコメント
マイクロサージャリーのope介助を、過去に何度か経験しました。この時は介助する側も、息を止めるような思いでした。何度も再吻合し、血流が認められた時は、麻酔科も一緒になって、歓声があがりました。しかし、血栓形成した際は・・・・。越えられない壁は確かにありますね。
介助するたびに、先生方の根気と信念の強さに頭の下がる思いでした。過去ログの切断指をつなぐope後の出来にも感嘆しました。

体調不良との事ですが、どうぞお体を御自愛下さいm(__)m
Posted by 猫のポチ at 2011年02月15日 10:33
猫のポチさま

コメントありがとうございます。
マイクロの時は、介助している看護師さんは別の意味で大変だと思います。うまくいくように顕微鏡下で介助したくても、全く手が出せないわけですから。

術者は顕微鏡を覗いているので周りの様子が分からないと思うかも知れませんが、実が周りの人たちの動きや、ひいては気持ちまで良く分かるのです。

真剣にモニターを見ていたり、手持ち無沙汰にしていたり、船を漕いでいたり、早く終わらないかなと思っって至、夕食のことを考えていたりすることを・・・(笑)。
Posted by Dr.KenDr.Ken at 2011年02月15日 14:31
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