Dr. Kenの “ゼロより1” 日記

沖縄県那覇市久茂地 タイムスビル6階にある 形成外科KCの院長、Dr. Kenのブログです。

壁を越える

 ドバイから帰国後、タイトなスケジュールのピークが今日でした。県立病院での乳房再建を数ヶ月前から予定していたのです。下腹部の皮膚と脂肪を栄養する細い血管を胸の血管に手術用顕微鏡でつなぎ、組織の血流を再開させて乳房を再建しました。形成外科の仲間の助けをかりて順調に手術を終えました。乳房を再建するわけですから、切り取られていない乳房にできるだけ同じ形になるよう仕上げるのが目標です。綺麗で対称的な形に再建するのは、彫刻に似ています。形成外科医としての技量、センスが問われる手術です。何度も皮弁の位置を変え、皮弁を削りながら、なおかつ血流にも気を付けながら形を整えていきます。終盤に、手術台を起こして座位に近い状態、つまり立った姿勢に近い状態にして乳房の仕上がりを評価します。最終的に、OKサインを出すのは私ではありません。介助についてくれた看護師さんが、仕上がりに納得してくれた段階で手術は終了します。

 この手術の、技術的なポイントは、手術用顕微鏡を使って細い血管を手際よく、確実につなぐことです。16cmX43cmの大きな皮膚と脂肪が2mm前後の細い血管で生きているわけです。10-0ナイロンとよぶ太さが0.02mmの髪の毛よりもはるかに細い糸で縫い合わせるのです。少しでも縫い目に乱れが生じると、つまり血管の壁がキチッと合っていないと、つなぎ目で血栓と呼ばれる固まりができて、血管が詰まってしまうのです。ですから、ほんのすこしでも血管の縫い合わせに気がかりな部分があると、血管が詰まって手術が台無しになる確率が高くなります。血管を縫い合わせるときに、私自身は1針縫い終えるまで呼吸を止めて、集中力をピークに持って行きます。

 話変わって、今年、3月に野球のワールドベースボールクラシックで不調だったイチロー選手が、最後の最後に決勝のヒットを打った後に話した言葉があります。バッターとして1つの『壁を越えた』という言葉です。彼をして、さらなる次元に到達した瞬間と言うことでしょうか。その会話を聞いて自分が形成外科医として、1つの『壁を越えた』経験を思い出しました。19年前、形成外科研修を始めて2年目に切断指の血管を初めてつないで指を生き返らせた時です。ほとんどの場合、切断された指の血管はダメージが大きく、メスで切ったような断面ではありません。しかも直径が1mm前後ですから、それを確実につなぐには、技術だけではなく、決してあきらめない忍耐と絶対に生き返らせるという決意・集中力が必要です。その時の顕微鏡下の血管のイメージは今でも残っています。これは『うまくいく』という確かな感触を掴んだのです。それ以来、手術中に多少の不測の事態が生じても冷静に対応できる自分に気づきました。

 微小血管吻合あるいはマイクロサージャリーと呼ばれる技術、つまり細い血管をつなぐ技術は形成外科医の根幹をなすテクニックです。それを習得することで体中のあらゆる部分の組織を自由自在に移植することができます。さらにその中から学んだ、組織の優しい扱い方や丁寧な操作は、今、私が目標とするパーフェクトな美容外科に確実につながっています。

切断指、血管(動静脈)、神経、腱、骨をすべてつなぐ
壁を越える
壁を越える

1年後の状態、運動、知覚ともほぼ完全にもとの状態に戻っている
壁を越える
壁を越える


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