2009年12月21日
◆ケロイドと肥厚性瘢痕
一般的には、ケガや手術後のキズ跡が赤く盛り上がった状態を、すべて『ケロイド』と呼んでいるように思いますが、医学的には、キズ跡の線維成分が過剰に増殖した状態で、ケロイドまたは肥厚性瘢痕と区別して呼びます。両者の区別は、治療法を決める上で大切ですが、実際はきっちり線引きできない場合も少なくありません。両者の特徴を簡単に言うと、ケロイドは盛り上がりや硬さ、赤みなどが何年も持続し、元々のキズの範囲を越えて大きくなりますが、肥厚性瘢痕は、多くの場合時間とともに落ち着き、元々のキズの範囲を越えて大きくなることはありません。
ケロイドと肥厚性瘢痕の詳しい解説は日本形成外科学会のホームページもご覧下さい。
下の写真(クリックすると大きくなります)は、心臓手術の5年後のキズです。大きく赤く盛り上がっていますが、元々のキズの範囲を越えていないので、肥厚性瘢痕と診断しました。

下の写真(クリックすると大きくなります)は、ニキビ跡のキズです。元々のキズの範囲を越えて、大きく赤く盛り上がり、何年も持続し拡大しつつあるので、ケロイドと診断しました。

ケロイドと肥厚性瘢痕の治療(日本形成外科学会のホームページより一部抜粋)
保存的治療と手術的治療に分けられます。
保存的治療としては、以下の方法があります。
A.外用療法
ステロイド剤の入ったテープや、ステロイド剤軟膏を使用します。
保湿を目的として、水分不透過性絆創膏を貼ります。
B.局所注射療法
ステロイド剤をケロイドに直接注射する方法です。
C.内服療法
抗アレルギー剤は、かゆみなどの症状には効果が認められることがあります。
D.圧迫療法
患部の安静を保ち圧迫する方法があります。テープ固定やシリコンシートによる圧迫などが行われます。
E.放射線療法
手術後早期からの電子線照射が有効とされます。
ケロイドと肥厚性瘢痕の治療は、まず保存的療法が優先されます。手術を行っても保存的治療を術後早期から行う必要があります。特に、ケロイドの場合には、安易に切除すると再発し、元のケロイドより大きくなってしまうこともあり、注意が必要です。
私のこれまでの経験から、耳のピアス後のケロイドや、かゆみや痛みの強い肥厚性瘢痕は術後にしっかりと前述の保存的治療、特に電子線照射を併用することを条件に、外科的治療も有効と考えています。
下の写真(クリックすると大きくなります)は、心臓手術の3年後のキズです。肥厚性瘢痕と診断しました。

切除と術後電子線照射の併用治療後2年の状態です。再発していません。

下の写真(クリックすると大きくなります)は、ピアス後のケロイドです。

切除と術後電子線照射の併用治療後1年の状態です。再発していません。
ケロイドと肥厚性瘢痕の詳しい解説は日本形成外科学会のホームページもご覧下さい。
下の写真(クリックすると大きくなります)は、心臓手術の5年後のキズです。大きく赤く盛り上がっていますが、元々のキズの範囲を越えていないので、肥厚性瘢痕と診断しました。

下の写真(クリックすると大きくなります)は、ニキビ跡のキズです。元々のキズの範囲を越えて、大きく赤く盛り上がり、何年も持続し拡大しつつあるので、ケロイドと診断しました。
ケロイドと肥厚性瘢痕の治療(日本形成外科学会のホームページより一部抜粋)
保存的治療と手術的治療に分けられます。
保存的治療としては、以下の方法があります。
A.外用療法
ステロイド剤の入ったテープや、ステロイド剤軟膏を使用します。
保湿を目的として、水分不透過性絆創膏を貼ります。
B.局所注射療法
ステロイド剤をケロイドに直接注射する方法です。
C.内服療法
抗アレルギー剤は、かゆみなどの症状には効果が認められることがあります。
D.圧迫療法
患部の安静を保ち圧迫する方法があります。テープ固定やシリコンシートによる圧迫などが行われます。
E.放射線療法
手術後早期からの電子線照射が有効とされます。
ケロイドと肥厚性瘢痕の治療は、まず保存的療法が優先されます。手術を行っても保存的治療を術後早期から行う必要があります。特に、ケロイドの場合には、安易に切除すると再発し、元のケロイドより大きくなってしまうこともあり、注意が必要です。
私のこれまでの経験から、耳のピアス後のケロイドや、かゆみや痛みの強い肥厚性瘢痕は術後にしっかりと前述の保存的治療、特に電子線照射を併用することを条件に、外科的治療も有効と考えています。
下の写真(クリックすると大きくなります)は、心臓手術の3年後のキズです。肥厚性瘢痕と診断しました。

切除と術後電子線照射の併用治療後2年の状態です。再発していません。

下の写真(クリックすると大きくなります)は、ピアス後のケロイドです。

切除と術後電子線照射の併用治療後1年の状態です。再発していません。
2009年12月19日
◆『形成外科手術の十戒』解説2
3歳、女児、先天性巨大色素性母斑(生まれつきの大きなアザ)
出生時より体幹と下肢を中心に広範囲の黒いアザを認めました。本疾患は、整容の面からはもちろん、また悪性化の率が高いため早期の治療が必要です。黒いアザの部分を切除して人工真皮を移植し、その2〜3週間後に頭部の皮膚を移植する手術を繰り返し行いました。多数回の手術が必要になりますが、その理由は病変自体が広範囲なのはもちろんのこと、移植する皮膚を頭皮からのみ採取しているからです。治療の経過中に、アザが広い範囲に存在していた右下肢が左下肢に比して極端に細いことに気づきました。手術の影響かと思いましたが、そうではありませんでした。原因は不明ですが、最初に撮影した写真でも、明らかな左右差の存在を確認できたのです。
(写真はサムネイルで表示します、拡大したい場合は写真をクリックして下さい。)
術後

術前

この症例から学んだ十戒は以下の点です。
十戒その3:記録は正確に、そしてこだわりの写真を撮る
身体外表の形態回復、改善が主な仕事である形成外科にとって、術前・術中・術後の画像記録は何にもまして重要です。患者さんへの術前・術後の説明は、もちろん、術前検討会や学会報告でも写真無しでは、どんなに多くの時間と言葉を要しても、相手に正確に、こちらの意図を伝えることはできません。また、写真で経過を振り返ることで、以前には気づかなかった問題点が見えてくることがありますし、いいアイデアが思い浮かぶこともあります。その意味で、こだわりを持って良い写真を撮ること、つまり、適切な背景のもと、撮影範囲、撮影角度や露出を含めて可能な限り一定の条件で撮ることが大切です。良い写真が撮れることは、良い形成外科医となるための条件と言っても過言ではありません。
出生時より体幹と下肢を中心に広範囲の黒いアザを認めました。本疾患は、整容の面からはもちろん、また悪性化の率が高いため早期の治療が必要です。黒いアザの部分を切除して人工真皮を移植し、その2〜3週間後に頭部の皮膚を移植する手術を繰り返し行いました。多数回の手術が必要になりますが、その理由は病変自体が広範囲なのはもちろんのこと、移植する皮膚を頭皮からのみ採取しているからです。治療の経過中に、アザが広い範囲に存在していた右下肢が左下肢に比して極端に細いことに気づきました。手術の影響かと思いましたが、そうではありませんでした。原因は不明ですが、最初に撮影した写真でも、明らかな左右差の存在を確認できたのです。
(写真はサムネイルで表示します、拡大したい場合は写真をクリックして下さい。)
術後

術前

この症例から学んだ十戒は以下の点です。
十戒その3:記録は正確に、そしてこだわりの写真を撮る
身体外表の形態回復、改善が主な仕事である形成外科にとって、術前・術中・術後の画像記録は何にもまして重要です。患者さんへの術前・術後の説明は、もちろん、術前検討会や学会報告でも写真無しでは、どんなに多くの時間と言葉を要しても、相手に正確に、こちらの意図を伝えることはできません。また、写真で経過を振り返ることで、以前には気づかなかった問題点が見えてくることがありますし、いいアイデアが思い浮かぶこともあります。その意味で、こだわりを持って良い写真を撮ること、つまり、適切な背景のもと、撮影範囲、撮影角度や露出を含めて可能な限り一定の条件で撮ることが大切です。良い写真が撮れることは、良い形成外科医となるための条件と言っても過言ではありません。
2009年12月12日
◆『形成外科手術の十戒』解説1
今日から随時、『形成外科手術の十戒』について、できるだけ実際の治療経過を見せながら解説していきたいと思います。説明には、専門用語を使用することになりますが、ご了承ください。
18歳、男性、交通事故による顔面のケガです。
顔面中央の大きな裂創を詳しく調べると、左上顎骨と眼窩の骨折、左内眼角靱帯断裂、左涙嚢断裂を認めました。骨折部を整復して、特殊な金属(チタン製)で固定し、切れた内眼角靱帯と涙道を再建しました。術後は、機能障害を残さずに治癒しました。
この症例から学んだ十戒は以下の2点です。
十戒その1: まず問題点をつかめ、そして術前マーキングをしっかりと
先入観なしに、まず患者さんの訴えを聞き、丁寧に診察すること、すると、問題点がはっきりしてきます。問題点はいくつも具体的に見つけることができるので、それに対して手術方法を考えていきます。外傷の患者さんでは、難しいのですが、それ以外の場合は実際に図を書いて手術方法をデザインしたり、身体の表面に直接マーキングして具体的に手術のイメージを組み立てていくこと、イメージトレーニングをすることが大切です。
十戒その2:手術を患者に合わせよ、そして段取りよく
不慣れなうちは、しばしば固定概念で手術方法を患者に無理強いしがちです。問題点を全部列挙して、どの順序で解決していくか、またどれとどれを組み合わせたほうがよいか、複数の方法をイメージしながら大体のアウトラインを決めます。そして、その患者さんに最も適切な方法を選択していきます。そうすることで段取りよく、手術行うことができます。ただ、実際には、手術中に、より適切な方法が見つかったときは、予定の方法を柔軟に修正していくことは、日常茶飯事です。
2009年12月11日
◆『形成外科手術の十戒』改訂版
昨日は『形成外科手術の十戒』の原版を紹介しましたが、余りに簡潔に表現されているため、形成外科医でも、真意を理解するのは容易ではありません。そこで、形成外科医としての20年余の経験に基づいて、私なりに追加・改訂して、より分かり易く、より実践的な表現にしました。2007年6月、県立病院を去るときに後輩の研修医、形成外科医に、『形成外科手術の十戒』改訂版として紹介しました。
以下が、その改訂版で、赤字は私が追加した部分です。
1. まず問題点をつかめ、そして術前マーキングをしっかりと
2. 手術を患者に合わせよ、そして段取りよく
3. 記録は正確に、そしてこだわりの写真を撮る
4. 現存する組織をもとの位置にもどせ、使える組織を見極める
5. そして生じた欠損をまず処置せよ、今できることは何か
6. 欠損は似た組織でおぎなえ、余裕をもって組織を確保する
7. あまった組織は最後まですてないこと、最後の砦を残す
8. 慣習のとりこになるな、発想のリセット
9. 明日できることは今日するな、今日できることは何か
10. Dressingは手術より大切、特にこどもは油断しない
この十戒は、すでにわたしの血となり肉となっており、日々刻々、これを実践しながら診療にあたっているのです。そしてこれからも永遠に、形成外科医の道しるべとなるであろう『十戒』を、今後のブログで、具体的に解説していきます。乞うご期待!
以下が、その改訂版で、赤字は私が追加した部分です。
1. まず問題点をつかめ、そして術前マーキングをしっかりと
2. 手術を患者に合わせよ、そして段取りよく
3. 記録は正確に、そしてこだわりの写真を撮る
4. 現存する組織をもとの位置にもどせ、使える組織を見極める
5. そして生じた欠損をまず処置せよ、今できることは何か
6. 欠損は似た組織でおぎなえ、余裕をもって組織を確保する
7. あまった組織は最後まですてないこと、最後の砦を残す
8. 慣習のとりこになるな、発想のリセット
9. 明日できることは今日するな、今日できることは何か
10. Dressingは手術より大切、特にこどもは油断しない
この十戒は、すでにわたしの血となり肉となっており、日々刻々、これを実践しながら診療にあたっているのです。そしてこれからも永遠に、形成外科医の道しるべとなるであろう『十戒』を、今後のブログで、具体的に解説していきます。乞うご期待!
2009年12月10日
◆『形成外科手術の十戒』序章
十戒とは、仏教語で沙弥(しゃみ:若い修行僧)・沙弥尼の守らなければならない10の戒め(戒律)を指します。また、旧約聖書で言えば出エジプト記にある、モーセがシナイ山でヤーウェ神から与えられた10か条の啓示を指します。
それでは『形成外科手術の十戒』とは、何を指すのでしょうか。私がその言葉を初めて目にしたのは、一般外科研修を終え、1988年に形成外科の研修を始めた頃でした。元々は口唇裂手術で有名な米国の形成外科医Dr D Ralph Millard Jrの言葉で、形成外科手術書の前書きに日本語訳が書かれていました。逆説的な表現が多く、その意味を十分理解することなく、月日が経っていました。
2004年4月、県立那覇病院形成外科開設を機に転勤が決まった際、形成外科医として過ごした県立中部病院での10年間を振り返り、外科医全員の前で講演する機会を得ました。その準備をしているうちに思い出した言葉が『形成外科手術の十戒』でした。経験した多くの症例を見直すうち、その『十戒』の深い意味を思うとともに、その10年間は、また、十戒を実践した10年間でもあったのだと気付きました。
以下に『形成外科手術の十戒』を提示します。簡潔な表現ですが、それぞれの意味は深いものがあります。
・まず問題点をつかめ
・患者に手術を合わせよ
・記録は正確に
・現存する組織をもとの位置に戻せ
・そして生じた欠損創をまず処理よ
・欠損部は似た組織を補え
・余った組織は最後まで捨てないこと
・慣習のとりこになるな
・明日できることは今日やるな
・dressing (包帯)は手術より大切
それでは『形成外科手術の十戒』とは、何を指すのでしょうか。私がその言葉を初めて目にしたのは、一般外科研修を終え、1988年に形成外科の研修を始めた頃でした。元々は口唇裂手術で有名な米国の形成外科医Dr D Ralph Millard Jrの言葉で、形成外科手術書の前書きに日本語訳が書かれていました。逆説的な表現が多く、その意味を十分理解することなく、月日が経っていました。
2004年4月、県立那覇病院形成外科開設を機に転勤が決まった際、形成外科医として過ごした県立中部病院での10年間を振り返り、外科医全員の前で講演する機会を得ました。その準備をしているうちに思い出した言葉が『形成外科手術の十戒』でした。経験した多くの症例を見直すうち、その『十戒』の深い意味を思うとともに、その10年間は、また、十戒を実践した10年間でもあったのだと気付きました。
以下に『形成外科手術の十戒』を提示します。簡潔な表現ですが、それぞれの意味は深いものがあります。
・まず問題点をつかめ
・患者に手術を合わせよ
・記録は正確に
・現存する組織をもとの位置に戻せ
・そして生じた欠損創をまず処理よ
・欠損部は似た組織を補え
・余った組織は最後まで捨てないこと
・慣習のとりこになるな
・明日できることは今日やるな
・dressing (包帯)は手術より大切
2009年12月07日
◆壁を越える
ドバイから帰国後、タイトなスケジュールのピークが今日でした。県立病院での乳房再建を数ヶ月前から予定していたのです。下腹部の皮膚と脂肪を栄養する細い血管を胸の血管に手術用顕微鏡でつなぎ、組織の血流を再開させて乳房を再建しました。形成外科の仲間の助けをかりて順調に手術を終えました。乳房を再建するわけですから、切り取られていない乳房にできるだけ同じ形になるよう仕上げるのが目標です。綺麗で対称的な形に再建するのは、彫刻に似ています。形成外科医としての技量、センスが問われる手術です。何度も皮弁の位置を変え、皮弁を削りながら、なおかつ血流にも気を付けながら形を整えていきます。終盤に、手術台を起こして座位に近い状態、つまり立った姿勢に近い状態にして乳房の仕上がりを評価します。最終的に、OKサインを出すのは私ではありません。介助についてくれた看護師さんが、仕上がりに納得してくれた段階で手術は終了します。
この手術の、技術的なポイントは、手術用顕微鏡を使って細い血管を手際よく、確実につなぐことです。16cmX43cmの大きな皮膚と脂肪が2mm前後の細い血管で生きているわけです。10-0ナイロンとよぶ太さが0.02mmの髪の毛よりもはるかに細い糸で縫い合わせるのです。少しでも縫い目に乱れが生じると、つまり血管の壁がキチッと合っていないと、つなぎ目で血栓と呼ばれる固まりができて、血管が詰まってしまうのです。ですから、ほんのすこしでも血管の縫い合わせに気がかりな部分があると、血管が詰まって手術が台無しになる確率が高くなります。血管を縫い合わせるときに、私自身は1針縫い終えるまで呼吸を止めて、集中力をピークに持って行きます。
話変わって、今年、3月に野球のワールドベースボールクラシックで不調だったイチロー選手が、最後の最後に決勝のヒットを打った後に話した言葉があります。バッターとして1つの『壁を越えた』という言葉です。彼をして、さらなる次元に到達した瞬間と言うことでしょうか。その会話を聞いて自分が形成外科医として、1つの『壁を越えた』経験を思い出しました。19年前、形成外科研修を始めて2年目に切断指の血管を初めてつないで指を生き返らせた時です。ほとんどの場合、切断された指の血管はダメージが大きく、メスで切ったような断面ではありません。しかも直径が1mm前後ですから、それを確実につなぐには、技術だけではなく、決してあきらめない忍耐と絶対に生き返らせるという決意・集中力が必要です。その時の顕微鏡下の血管のイメージは今でも残っています。これは『うまくいく』という確かな感触を掴んだのです。それ以来、手術中に多少の不測の事態が生じても冷静に対応できる自分に気づきました。
微小血管吻合あるいはマイクロサージャリーと呼ばれる技術、つまり細い血管をつなぐ技術は形成外科医の根幹をなすテクニックです。それを習得することで体中のあらゆる部分の組織を自由自在に移植することができます。さらにその中から学んだ、組織の優しい扱い方や丁寧な操作は、今、私が目標とするパーフェクトな美容外科に確実につながっています。
この手術の、技術的なポイントは、手術用顕微鏡を使って細い血管を手際よく、確実につなぐことです。16cmX43cmの大きな皮膚と脂肪が2mm前後の細い血管で生きているわけです。10-0ナイロンとよぶ太さが0.02mmの髪の毛よりもはるかに細い糸で縫い合わせるのです。少しでも縫い目に乱れが生じると、つまり血管の壁がキチッと合っていないと、つなぎ目で血栓と呼ばれる固まりができて、血管が詰まってしまうのです。ですから、ほんのすこしでも血管の縫い合わせに気がかりな部分があると、血管が詰まって手術が台無しになる確率が高くなります。血管を縫い合わせるときに、私自身は1針縫い終えるまで呼吸を止めて、集中力をピークに持って行きます。
話変わって、今年、3月に野球のワールドベースボールクラシックで不調だったイチロー選手が、最後の最後に決勝のヒットを打った後に話した言葉があります。バッターとして1つの『壁を越えた』という言葉です。彼をして、さらなる次元に到達した瞬間と言うことでしょうか。その会話を聞いて自分が形成外科医として、1つの『壁を越えた』経験を思い出しました。19年前、形成外科研修を始めて2年目に切断指の血管を初めてつないで指を生き返らせた時です。ほとんどの場合、切断された指の血管はダメージが大きく、メスで切ったような断面ではありません。しかも直径が1mm前後ですから、それを確実につなぐには、技術だけではなく、決してあきらめない忍耐と絶対に生き返らせるという決意・集中力が必要です。その時の顕微鏡下の血管のイメージは今でも残っています。これは『うまくいく』という確かな感触を掴んだのです。それ以来、手術中に多少の不測の事態が生じても冷静に対応できる自分に気づきました。
微小血管吻合あるいはマイクロサージャリーと呼ばれる技術、つまり細い血管をつなぐ技術は形成外科医の根幹をなすテクニックです。それを習得することで体中のあらゆる部分の組織を自由自在に移植することができます。さらにその中から学んだ、組織の優しい扱い方や丁寧な操作は、今、私が目標とするパーフェクトな美容外科に確実につながっています。
切断指、血管(動静脈)、神経、腱、骨をすべてつなぐ


1年後の状態、運動、知覚ともほぼ完全にもとの状態に戻っている


1年後の状態、運動、知覚ともほぼ完全にもとの状態に戻っている
2009年11月29日
◆ワキガの手術
開業後に増えた手術のひとつがワキガ(腋臭症)の手術です。
ワキガの原因については省略しますが、治療は汗腺の一種であるアポクリン腺を丁寧に外科的に取り除いていくことになります。体表面で、アポクリン腺が多い部分は、ワキの下、乳首(乳輪)、耳の中(耳の後ろ)、陰部・肛門です。アポクリン腺は、毛根に付着し、肉眼的にもはっきり区別できる比較的大きな房状の組織です。主な手術方法は、皮膚を切開して裏面から直視下にハサミで除去する方法と小切開から特殊な器具を使ってアポクリン腺を削り取るか、吸引していく方法があります。当院では、健康保険の適応でもある前者で治療しています。
具体的には、局所麻酔を行ったあとワキの中央のしわにそって約4cm切開します。

下の写真は皮膚の裏側を見たところです。毛根に橙色のアポクリン腺がびっしり付着しているのがよく分かります。

下の写真はハサミでアポクリン腺を除去したあとの状態です。

アポクリン腺を切除した後の出血を予防するため、当院で独自に考案した方法で圧迫します。

手術後1ヶ月目のキズあとです。

手術後1年目のキズあとです。幸いにしてワキのキズあとは、あまり目立ちません。臭いも手術前に比べ明らかに改善します。
ワキガの原因については省略しますが、治療は汗腺の一種であるアポクリン腺を丁寧に外科的に取り除いていくことになります。体表面で、アポクリン腺が多い部分は、ワキの下、乳首(乳輪)、耳の中(耳の後ろ)、陰部・肛門です。アポクリン腺は、毛根に付着し、肉眼的にもはっきり区別できる比較的大きな房状の組織です。主な手術方法は、皮膚を切開して裏面から直視下にハサミで除去する方法と小切開から特殊な器具を使ってアポクリン腺を削り取るか、吸引していく方法があります。当院では、健康保険の適応でもある前者で治療しています。
具体的には、局所麻酔を行ったあとワキの中央のしわにそって約4cm切開します。
下の写真は皮膚の裏側を見たところです。毛根に橙色のアポクリン腺がびっしり付着しているのがよく分かります。
下の写真はハサミでアポクリン腺を除去したあとの状態です。
アポクリン腺を切除した後の出血を予防するため、当院で独自に考案した方法で圧迫します。
手術後1ヶ月目のキズあとです。
手術後1年目のキズあとです。幸いにしてワキのキズあとは、あまり目立ちません。臭いも手術前に比べ明らかに改善します。
2009年11月24日
◆陥入爪と巻き爪
当院では爪のあらゆるトラブルに対応し、病的な爪も美容の面でも満足できる状態にしようと考え、高い技術を持ったネイルスペシャリストとともに治療ができるネイルクリニックを併設しています。今後、ブログでも『爪』について、いろいろご紹介しようと思います。今回は陥入爪と巻き爪です。
爪の変形は、ほとんどないのに爪の縁が皮膚にくい込み化膿と痛みを伴う場合を陥入爪と呼んでいます。一方、巻き爪とは、爪が弯曲した状態を指し、変形が高度でない限り痛みを伴うことは少ないため病院を受診する方は少ないと思われます。
陥入爪で皮膚への食い込みが強い場合は、手術による治療が確実で、治癒までの期間も短くて済みます。具体的には、局所麻酔後に、皮膚に食い込んだ爪の一部が生えてこないように爪の根元にある爪母と呼ばれる部分を切り取ります。
陥入爪手術前。青くマークした部分の爪が生えてこないように手術しました。

手術後8ヶ月、爪の幅は若干狭くなりましたが、再発はありません。

次に巻き爪ですが、私も以前は手術(爪床形成術)で治療していました。
手術だと治療結果は良いのですが、手術自体、指・趾への負担が大きく、大きなキズ跡を残すために長期に渡ってキズの痛みや違和感が残るのが欠点です。また、高齢の方や糖尿病、手足の血液循環が悪い方は、いろんな理由で手術が適応しにくいのも事実です。そのため、近年、特殊なワイヤーや樹脂を利用した手術以外の方法が盛んに用いられています。
当院では、2年余り前から手術ではない当院独自の方法(KC法)で治療を始めています。すでに100名以上の方を治療中で、途中経過は学会でも報告しました。
詳細については、当院ホームページの2009年5月1日付けニュース欄をご覧下さい。
以下に代表的な手術治療例とKC法による治療例を提示します。
巻き爪1、手術前、爪を抜いて黒いラインで切開し皮膚を伸ばして縫合します。


巻き爪1、手術後8年、再発はありません。

巻き爪2、KC法による治療前。

巻き爪2、KC法による治療開始後1ヶ月の状態。

巻き爪3、KC法による治療前。

巻き爪3、KC法による治療開始後11ヶ月の状態。
爪の変形は、ほとんどないのに爪の縁が皮膚にくい込み化膿と痛みを伴う場合を陥入爪と呼んでいます。一方、巻き爪とは、爪が弯曲した状態を指し、変形が高度でない限り痛みを伴うことは少ないため病院を受診する方は少ないと思われます。
陥入爪で皮膚への食い込みが強い場合は、手術による治療が確実で、治癒までの期間も短くて済みます。具体的には、局所麻酔後に、皮膚に食い込んだ爪の一部が生えてこないように爪の根元にある爪母と呼ばれる部分を切り取ります。
陥入爪手術前。青くマークした部分の爪が生えてこないように手術しました。
手術後8ヶ月、爪の幅は若干狭くなりましたが、再発はありません。
次に巻き爪ですが、私も以前は手術(爪床形成術)で治療していました。
手術だと治療結果は良いのですが、手術自体、指・趾への負担が大きく、大きなキズ跡を残すために長期に渡ってキズの痛みや違和感が残るのが欠点です。また、高齢の方や糖尿病、手足の血液循環が悪い方は、いろんな理由で手術が適応しにくいのも事実です。そのため、近年、特殊なワイヤーや樹脂を利用した手術以外の方法が盛んに用いられています。
当院では、2年余り前から手術ではない当院独自の方法(KC法)で治療を始めています。すでに100名以上の方を治療中で、途中経過は学会でも報告しました。
詳細については、当院ホームページの2009年5月1日付けニュース欄をご覧下さい。
以下に代表的な手術治療例とKC法による治療例を提示します。
巻き爪1、手術前、爪を抜いて黒いラインで切開し皮膚を伸ばして縫合します。


巻き爪1、手術後8年、再発はありません。

巻き爪2、KC法による治療前。
巻き爪2、KC法による治療開始後1ヶ月の状態。
巻き爪3、KC法による治療前。
巻き爪3、KC法による治療開始後11ヶ月の状態。
2009年11月17日
◆4年ぶりの再会
T氏が突然クリニックを受診してきました。
県立病院在職中の5年前に、他院から再発性の腹壁瘢痕ヘルニア(お腹の手術後に壁の一部が弱くなって、その部分が大きく飛び出した状態)のために紹介されてきました。お腹の壁の弱った部分が広範囲であったため、人工の材料を使って、その部分を補強して治しました。その後、1年ほど順調な状態を見届けて、経過観察を終えました。
見る限りまだ髪の毛も黒い部分が多く、お顔立ちからも、すでに満80歳を越えているようには見えません。ただ、顔色にやや生気がないため、詳しく尋ねると今月に入り食欲が低下して、数日前に近くの病院を受診し血液検査をしたところ、すぐに入院をすすめられたとのことでした。ただ、なぜ入院する必要があるのか、説明が十分なされず納得できなかったため、そのまま帰宅したとのことでした。その後、なぜか私のことが頭に浮かび、消息を探し当て、突然の受診となったのです。
診察するに、発熱はなく、お腹の痛みもなく、局所的には問題がありませんでした。だた、食欲が回復せず、体調が思わしくないことの不安は、その表情から十分見て取れました。入院ベッドを持たない診療所の医師としては、これ以上の検査もケアもできないため、総合病院に紹介することとしました。詳しい経過を書いた紹介状に5年前の手術の様子を撮した写真を添えて、手渡しました。紹介先の先生が、私の知人の外科医であることを説明すると、安堵の視線を私に向け、クリニックを後にしました。
老夫婦二人でお帰りになる姿を眺めながら、大きな手術を無事終えたあとの様な、充実感を覚えました。
県立病院在職中の5年前に、他院から再発性の腹壁瘢痕ヘルニア(お腹の手術後に壁の一部が弱くなって、その部分が大きく飛び出した状態)のために紹介されてきました。お腹の壁の弱った部分が広範囲であったため、人工の材料を使って、その部分を補強して治しました。その後、1年ほど順調な状態を見届けて、経過観察を終えました。
見る限りまだ髪の毛も黒い部分が多く、お顔立ちからも、すでに満80歳を越えているようには見えません。ただ、顔色にやや生気がないため、詳しく尋ねると今月に入り食欲が低下して、数日前に近くの病院を受診し血液検査をしたところ、すぐに入院をすすめられたとのことでした。ただ、なぜ入院する必要があるのか、説明が十分なされず納得できなかったため、そのまま帰宅したとのことでした。その後、なぜか私のことが頭に浮かび、消息を探し当て、突然の受診となったのです。
診察するに、発熱はなく、お腹の痛みもなく、局所的には問題がありませんでした。だた、食欲が回復せず、体調が思わしくないことの不安は、その表情から十分見て取れました。入院ベッドを持たない診療所の医師としては、これ以上の検査もケアもできないため、総合病院に紹介することとしました。詳しい経過を書いた紹介状に5年前の手術の様子を撮した写真を添えて、手渡しました。紹介先の先生が、私の知人の外科医であることを説明すると、安堵の視線を私に向け、クリニックを後にしました。
老夫婦二人でお帰りになる姿を眺めながら、大きな手術を無事終えたあとの様な、充実感を覚えました。


